ジャケットをご覧いただければわかる通り、チェット・ベイカーのプレイズ・バラードです。
このアルバムはリバーサイド移籍第3作です。リバーサイドはパシフィック・ジャズ時代のベイカーを意識していたのか、かなりポピュラーな路線を(女性受け)狙って売り出していたように思えます。第1作はもう一枚の「チェット・ベイカー・シングス」といった趣のアルバムでした。
チェット・ベイカーはもちろんウエスト・コースト・ジャズのスターで、ジェリー・マリガンのピアノレス・カルテットでセンセーショナルなデビューをしました。端正でクールなスタイルのトランペットと中性的なヴォーカルとで絶大な人気を誇りました。
このアルバムの特徴はチェット・ベイカーのバラード集ながらハービー・マンを除く共演者はイーストの若手たちです。特にビル・エヴァンスの参加に目がいくことでしょう。
確かに大衆路線のバラード・アルバムではありますが、軟弱なアルバムになっていないところは流石です。ビル・エヴァンスはこのあとマイルスのもとで大傑作「KIND OF BLUE」を吹き込みます。短いソロやバッキングに独特の色合いがあります。
またポール・チェンバースとフィリー・ジョー・ジョーンズのリズム隊の出来がよく、がっしり全体を支えてます。1曲目「ALONE TOGETHER」のポール・チェンバースのバッキングなど聞きほれてしまいます。
そしてペッパー・アダムスですが、彼の出来が非常によいです。短いソロですが全体のムードを壊さずにぴったりとはまったソロを取っています。
さてチェット・ベイカーです。今迄ベイカーはウエスト・コーストでアルバムを作っていました。ウエストの特徴の一つに粋なアンサンブルというものがあります。かなり計算されたアレンジのもとでのソロという感覚です。
でもこのアルバムはさすがイーストというか簡単なヘッドアレンジで作られているように感じます。そこがチェットにとって新鮮だったのでしょうか、甘さにだっすることなく、しっかりしたソロとなっています。
チェット・ベイカーはあまり原曲のメロディを壊さずストレートに吹いています。しかし非常にクールなソロです。マイルス・デイヴィスのトーンを非常に感じます。特に1曲目「ALONE TOGETHER」などはマイルスの「死刑台のエレベーター」を連想してしまいました。陰影のあるサウンド、長くのばしたフレーズなど「クール・ヴォイス・オブチェット・ベイカー」ですね。
ビル・エヴァンスのバッキングも「ブルー・イン・グリーン」の雰囲気をちょっとだけ醸し出しています。それから「HOW HIGH THE MOON」「YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO」のアレンジが面白いです。普通比較的早いテンポで演奏される曲なのですがここではスロー・バラード的な雰囲気で演奏されています。
「YOU'D BE」でハービー・マンがソロを取りますが、ヘレン・メリルのヒット盤のソロと非常に似てます。聞き比べてみてください。
10曲目はオムニバス盤「NEW BLUE HORNS」に収録されたブルースです。ジャム・セッション風の演奏ですが、ビル・エヴァンスの硬いソロが印象的です。僕のベストトラックは1曲目「ALONE TOGETHER」でしょうか。でも4曲目も捨てがたいです。皆さんはいかがでしょうか?
チェット・ベイカーのクールなバラード・アルバム!
二人の夜に明かりを少しだけ落としてワイングラスをかたむけながら・・・
ではおやすみなさい
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